目の前に広がる桃の果樹園、どこまでも抜ける青い空、それら自然の恩恵を存分に味わいながら暮らしたいという願いを元に、京都で設計を生業としている娘さんが様々なアイデアを落とし込んだ、建て替えの家です。
一面に広がる果樹園畑の中にたたずむように、ぽんと置かれた様な総二階+下屋のシンプルな外観ですが、表情、色味のある左官仕上げを採用し、南側に並ぶ木製サッシや戸袋、濡れ縁、表しの垂木や軒天井の木部、適度に重みのある色の屋根が、新しくもどこか懐かしい優しい佇まいです。
室内の主たる壁は福島の地で採れた土を利用した土壁仕上げ。
藁や砂を混ぜ合わせて発酵させる従来のやり方で材料を造りました。藁や水の分量など、職人の感覚が重要になってつくられた素材、その仕上げはまさに人の手仕事だからこその領域でここだけにしかない左官壁。
壁は土、天井は木の表わしというコントラストが大空間ながらも落ち着きがある雰囲気に。登り梁や杉板の配り方、見せ方。こちらは大工の目利き、技術があってこその空間に仕上がりました。
水回りはバックヤードのパントリーからダイレクトにキッチン、ダイニングへ。キッチンは杉材に黒塗装で「和箪笥」のような古民家風の味わいのある雰囲気に仕上げています。
一方で恵まれた敷地をいかし南側へ配置された浴室は、タイルと桧で構成したオリジナルの浴室。湯船に漬かりながら見渡す景色も素晴らしく、一日の疲れも忘れてしまうほど癒されます。
床は全ての部屋を通して優しい風合いの杉材。一部にはイ草が香る畳を使用。更に南の木製サッシ部分には障子を組み込み、閉めた時にはガラッと室内の雰囲気が変わります。仏間との間には花模様の彫り物の欄間など、職人の繊細な手仕事が感じられます。
また、建替え前にあった欄間や神棚材を再利用したり、お母様の着物をワンポイントで建具に張ったりと、家族の思い出も要所要所で取り入れました。
更には造園も家の心地よさを左右する重要な要素。室内、外観と調和し、室内の落ち着きと四季折々の彩りを存分に感じられるよう、造園屋さんが腕をふるいました。
大工、左官、建具、庭師...。木、土、紙、緑...。それぞれの職人がそれぞれの素材の個性を生かしきり、お互いがお互いを引き立てる。日本という国が培ってきた木造建築、住宅の心地よさ、奥深さ、美しさ...。それらが凝縮され、昇華されたかけがえのない一棟です。